狐と踊れ

踊っているのでないのなら
踊らされているのだろうさ

狐と踊れ (ハヤカワ文庫JA)

狐と踊れ (ハヤカワ文庫JA)

神林長平の初期短編集、狐と踊れが装いも新たになって帰ってきましたよ。
これは旧版の狐と踊れに収録されていたものから敵は海賊を除き、単行本未収録作品を新たに4編加えたもの。
道具に意識はなく、しかし意志はあり、それによって社会は、人間は支配されているという物語以前に、胃が体の中から飛び出すというアイデアが秀逸な狐と踊れですが、SFコンテストで佳作をとったときには社会構成がいい加減で、それがプラスになっているけれど…?というような誉めているのかどうなのかよくわからない評価をされています。実際、人間の価値が胃があるか無いかでほとんど決定されるような社会である、という説明がなされはするのですけれど、その社会のシステムが既に我々の普段生活している場とはかけ離れてしまっているがゆえに、最終的な落としどころが社会システムに大きく絡んでくると、読者としてはそれほどのめり込めない感じがあります。
さらに言えば、作中で何かしらの問いかけがなされるのに、それに明確な回答が用意されていることがほとんど無いことも人を選ぶ要因でしょう。もっとも、その部分が私は面白いと思うのですが。


あと、追加作品では落砂が最高のでき。というか、この作品は短編集中、最も良いできなのではないかと。簡単に言ってしまえば藪の中みたいな話。第三者の視点を取り入れることで、結局何がどうしてどうなっているのかはっきりさせることができるかと思いきや、混沌具合がさらに上昇するという、非常に稀な話です。


2週間ぶりに本を読んだら脳が文字を受け取ってくれなかった禾原