ハーモニー

「東北大 幻想研 ブログ」でググってみたら一番上に来てるのが東北大学SF研wikiで笑う。


本当のところ、この事実を不特定多数の人々に伝えたかっただけなのですが、それだけだと流石に顰蹙を買いますよね。

伊藤計劃「ハーモニー」

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

調べてみたところ、「ハーモニー」ってSFが読みたい!国内編で1位取ってたんですね。「虐殺器官」も1位取ってたとか。伊藤計劃凄すぎるぜ。


人間の体は体内の医療分子により常時監視され、病気はおろか頭痛などのちょっとした痛みからも守られている世界。
誰もが互いの健康を第一に考え、気遣い、親密に行動しなければならない空気が漂っている。
左の頬をうたれたら誰もが右をさしだす。そんなユートピアに嫌気がさした3人の少女。彼女らは世界に反旗を翻すために自殺を試みる。
13年後、自殺を試みて死ねなかった少女は大量自殺という事件にかつての友人の影を見る。


虐殺器官のような硬い文章で描かれる緻密な描写で多くの読書人の心を鷲掴みにした計劃が何を思ったかちょっぴりライトで百合な話を書いてしまったのが本作。
伊藤計劃という作家を知らない人はともかく、何か一作でも読んだことのある人はおそらく最初の30ページで驚くかもしれません。

「ただの人間には興味がないの」
とあっさり言い放つ。まるで宇宙人や超能力者でも持ってこなければ話にならん、と求婚者に理不尽を告げるかぐや姫のよう。

こんなことをしれっとやります。ただ、時間がなかったのか、それともこの部分だけキャッチーにしたのか、あるいは私にはわからなかったのかはわかりませんが、こういうノリは後半になればなるほどなりを潜めていきます。
それでも油断してると蒼き衣をまといて金色の野に降り立ったりしますが。
でも考えてみれば虐殺のときもところどころでモンティ・パイソンとかやってたからひょっとしたら計劃とは元来このような作家なのかもしれませんね。
全書籍図書館という言葉にボルヘスというルビをふったのは秀逸。


一人称での語りが饒舌であり、地の文で様々な事象に説明を加えなければならないためでしょう。常に主人公が冷静であるような印象を与えてしまうので、友人を殺された復讐のために動く主人公というのには若干の違和感を覚えましたが、人間の意識についての部分が面白いのでその辺りはあまり気になりません。
よくサイバーパンクでは精神をデジタル化し、肉体は不要なもの、としますが、肉体を活かすために最適の精神があれば精神こそ不要ではないかという主人公の意見に脱帽。


読んでいる最中、確固とした何かを持っている作家は強いなあ、と漠然と考えたりしたのはどこかで虐殺器官と似ていると思ったからでしょう。
とか言いながら虐殺をあんまり覚えていないので詳しく言及できませぬ。


ところで計劃の作品は意識についてを根幹に据えたものが多いように感じます。というのは私が「From the Nothing, with Love」を非常に高く評価しているからかもしれませんが。というか最高傑作でしょう。
屍者の帝国が最高傑作になりうるポテンシャルを秘めていただけに未完なのが悔やまれます。
あ、あと「虐殺器官」がもう4刷決定だそうですね。2月に出たばかりなのにすごいな。


禾原