七都市物語

何やら懐かしくなったので、田中芳樹についてつらつら書いてみたいと思います。
七都市物語が部室に置かれているようなので、こちらを。

七都市物語 (ハヤカワ文庫JA)

七都市物語 (ハヤカワ文庫JA)

突如地球を襲った未曾有の惨事“大転倒”―地軸が90度転倒し、南北両極が赤道地帯に移動するという事態に、地上の人類は全滅した。しかし、幸いにも月面に難をのがれた人類の生存者は、地上に七つの都市を建設し、あらたな歴史を繰り広げる。だが、月面都市は新生地球人類が月を攻撃するのを恐れるあまり、地上五百メートル以上を飛ぶ飛行体をすべて撃墜するシステムを設置した。しかも、彼らはこのシステムが稼動状態のまま、疫病により滅び去ってしまったのだ。そしてこの奇妙な世界で、七都市をめぐる興亡の物語が幕を開くのだった。

少々意味不明なあらすじですが、要するに「上空の利用を制限された地球における現代軍事戦」がテーマです。
田中は代表作、銀河英雄伝説の冒頭でも、現代を「レーダーとミサイル技術が奇形的に発達した一時代」とまとめています。
現代の、国家間の戦争における戦術規模級の戦闘の影響力を高めるための苦肉の策として、こうした奇妙な設定を導入したのでしょう。

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)


また、この作品においてポイントとなってくるのが、登場人物間の会話の辛辣さでしょうか。それまでの田中作品をはるかに凌ぐほどのクセ者揃いとなっています。
同時期(89年前後)に書かれた同作者の作品を見るに、皮肉の面はアルスラーン戦記、謀略の面はマヴァール年代記からの影響が感じられるところです。

マヴァール年代記(全) (創元推理文庫)

マヴァール年代記(全) (創元推理文庫)


田中は遅筆と未完の多さで知られる作家で、この作品も投げ出されています。*1
数年前に、別作家たちによる、同世界観を生かしての短編集が発売されたようですが未読。
ここ数年、田中はこうした原案作家としての活動も行っているのですが、ほとんど未完ばかりなんですよね…。

七都市物語 シェアードワールズ (トクマ・ノベルズ)

七都市物語 シェアードワールズ (トクマ・ノベルズ)


こんな作家さんですが、着想や語り口は大変上手なんですね。
銀河英雄伝説なんかは、SFの皮をかぶった歴史小説として、読んでおいて損のない作品だと思います。
以上、木野でした。

*1:そういえば東大アニ研OBの方とお話した際に「田中芳樹を恨んでいるOBが大勢いる」なんて言ってたなぁ