三題噺(4月6日開催[2])

こんにちは。

前回に続いて、先日の三題噺で提出されたもので公表してもいいという方のものを紹介したいと思います。



『旅の道連れ』


 羽田裕との付きあいは今年で三年になる。元々沖縄に行きたいと言うことで意気投合した私達だったが、それにしては長い付き合いだったと思う。普通ならば一回行けば終わりの付き合いなのに、私と羽田は何度も沖縄に行った。羽田は沖縄の青い空を、赤い宮殿の瓦を、緑のさとうきびを愛し、私は海の青を、宮殿の歴史を、さとうきびの悲劇を心に刻んだ。簡単に言えば、私と羽田は沖縄が大好きだった。
 羽田は沖縄のことを何も知らない。一方私は沖縄の知識だけは豊富だった。羽田はシーサーを知らなかった。だから私はドヤ顔でシーサーのことを教えた。羽田は海ぶどうを知らなかった。私はその旨さを言葉で伝えた。じゃあ食べに行こうと羽田が言った。私は羽田が大好きだった。
 何かがおかしいと思いはじめたのは昨年の夏のことだった。羽田はいつものように沖縄へ出かけた。ただし、今回は私とではなかった。私の知らない誰か。その女(ひと)と一緒に行ってしまった。
 独白する。私は地図だ。沖縄を紹介する観光用地図だ。
 見られなくなった地図は存在意義を失う。つまり私は――もはや不要物、つまりゴミなのだ。
 その女(ひと)は私より細くスマートな電話(フォン)だった。私は棚の中で泣いた。普通ならば一回の旅行で捨てられる娼婦だったはずの私が、三年も生き永らえたのがむしろ間違いだったのだ。だから余計に悲しいのだ。なまじ期待などさせるから。

 だが羽田は今日、久々に私を手に取った。私のほこりをやさしく払ってくれた。私は信じた。彼が私のことを愛してくれるのだと。

 そして羽田は私を宙に放り投げ、私はゴミ箱におさまった。それがつい一時間前のことである。