三題噺(4月6日開催[3])

こんにちは。 

前回に続いて、先日の三題噺で提出されたもので公表してもいいという方の作品を一つ紹介させていただきます。


「目薬」「レッドブル」「マグカップ


 キッチンの方から、陶器の割れる音がした。箱買いしたレッドブルダンボールに腰かけていた彼女は、特に驚きもせず立ち上がってキッチンへ向かい、すぐに真っ二つになった赤いマグカップを手に戻ってくる。
「これが例の?」
 ぼくが問うと、深妙な顔で彼女が頷いた。
ポルターガイスト。悪戯者で困るよ」
「怖くないんですか」
「別に。敢えて言うと、どうせいわくつきの部屋に住むなら、『赤い部屋』の隣だったら良かったのに」
 赤色が好きなんだ、と言って笑う彼女を見て、ぼくは曖昧な笑みを返すしかなかった。
「実際に赤い部屋があるとしたら、のぞき穴から目薬をさすぐらいのことはしてみたいね」
「そしたら赤くなくなるのでは」
「それもそうか」
 納得されても困る。でも、指摘されて赤面した彼女の横顔が意外にも普通の女の子らしいことに気付き、ぼくは今度こそ心から笑った。