幻想研の100冊以降<第9回〜ファンタジーノベル大賞〜>

ファンタジーノベル大賞受賞作レビューの第2弾です。(みよしくにこ)

№116
太陽の塔』<第15回>
森見登美彦 新潮社
 ファンタジーノベル大賞作家随一の働き手、森見登美彦のデビュー作にして最高傑作。アニメ化された四畳半や直木賞候補にもなった夜は短しのエッセンスはすべてこの一冊に含まれているのでこれを読めば森見は七十%制覇したと言っても過言ではないだろう。キャラクターの個性を押し出す芸風や読者との距離を近くする文体は後々も変わらないが、太陽の塔は後の作品にみられるような大衆受けするための媚があまりないのが特徴である。恋愛の成功があるわけではなく、そもそも女の子がこれっぽっちも可愛くない。だが反対に男臭溢れる連中がどこまでも愛おしい。※私はゲイではない。(禾原)

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)


№117
『ラス・マンチャス通信』<第16回>
平山瑞穂 新潮社(角川書店
 恵まれない作家に愛の手を。器用貧乏で有名な作家、平山瑞穂のデビュー作にして最高傑作。出版当時の帯には「マルケスカフカ+?」というなんとも壮大な煽り文句が書かれていたが、本作はそれに恥じぬ面白さである。不条理というか現実とは乖離している現象、存在が多々現れるのだが、語り手がそれを世界の一部として受け入れて描いていることで非日常が日常に上手い具合に溶け込んでいる。だがこの不条理な世界は嫌悪する人も大勢いるだろう。とりあえず第一章「畳の兄」が作品のすべてを物語っているのでそこで判断することをお薦めする。(禾原)

ラス・マンチャス通信

ラス・マンチャス通信