幻想研の100冊以降<第8回〜ファンタジーノベル大賞〜>

今回から3回はファンタジーノベル大賞の受賞作を取り上げます。傾向が無いことが傾向と言われたりもするアレ。

№114
『バルタザールの遍歴』<第3回受賞>
佐藤亜紀 文藝春秋
 博士たち、名を連ねるとメルヒオール、バルタザール、カスパールは、ベツレヘムで乳香と黄金と没落をそれぞれ贈り物としてイエスに捧げたことになっています。20世紀初頭に再び佐藤亜紀の手によって顕現した彼らは、複数の精神を保ちながら、肉体を一とすることによって、地上の遍歴を開始しました、ただし、カスパール<没落>をひとり除いて。☆バルタザールの遍歴☆はウィーンを舞台とした作品です。日本人作家離れした描写によって立ち上がる小説の奥ゆき、そんな佐藤亜紀的ディティールに陶酔したい人は、こちらをどうぞ(「ミノタウロス」でもよいけれど)。(どはつてん)

バルタザールの遍歴 (文春文庫)

バルタザールの遍歴 (文春文庫)


№115
『ベイスボイル・ブック』<第9回受賞>
井村恭一 新潮社
 一般人の追随を許さない作家、井村恭一のデビュー作にして最高傑作。芥川賞候補になった不在の姉とかは書籍化されていないのでノーカンです。矢川澄子の指摘通りベイスボイルと犬の関係はいまひとつわからず、そもそも物語として見たときにはキャラクターの厚み、深みがあまり感じられないので実はけっこう読み進めるのが辛かったりする。しかし巧みな比喩によって紡がれる文章はめちゃめちゃ上手く、それだけでも読む価値がある。内容についてはハヤカワ編集部の人は「ボイルなのでぐつぐつしている」と形容し、荒俣宏は「乾いたファンタジー」と表現した。まあ、そんな感じだ。(禾原)

ベイスボイル・ブック

ベイスボイル・ブック