幻想研の100冊以降<第3回〜芥川賞〜>

芥川賞第2弾。

№104
<第77回芥川賞受賞作>『僕って何』 三田誠広 角川文庫
セクト間の闘争や年上の女性との同棲を通して「自分とは何か」を読者に問いかける作品。青年期の課題として「自己同一性の確立」というものが挙げられるが、まさに主人公はそれを成そうとしている。しかし受け身で貧弱な草食系男子的な主人公はなかなか「僕とは何か」、その疑問に対する答えが見つけることが出来ない。こんな本格的な闘争は目の当たりにしたことはないけど、立て看板とか演説とかは「ああ、うんうん」とすんなりイメージすることが出来た。全体にわたって昭和の香りを感じることの出来る作品。心地よくあれる居場所って大事だよね。第77回芥川賞受賞作。(裕空)

僕って何 (角川文庫)

僕って何 (角川文庫)


№105
芥川賞 128回>『しょっぱいドライブ』 大道珠貴 文藝春秋
三十四歳の主人公が六十を過ぎた老人と付き合う表題作。川上弘美センセイの鞄』と類似した設定だが、川上の落ちついた語り口さえ熱くメロドラマティックだったような気にさせられるほどに塩味だ。選評の際、村上龍に「わたしの元気を奪った」と言わせるとは何事か。大道は、日常にぴったりと張り付いていて、言葉にするには限りなく無に近く、意識的に書かれては台無しになってしまうような種類の「いやなもの」を、なんとはなしに書いてしまう。そんな世界を普通に受け止め生活してゆく主人公の逞しさに元気を奪われるか励まされるかは、読み手によるだろう。併録二作も同様。(せなかつこ)

しょっぱいドライブ (文春文庫 (た58-2))

しょっぱいドライブ (文春文庫 (た58-2))


今週のレビュー掲載はここまで。次回の掲載は5月9日(月)の予定です。(みよしくにこ)