幻想研の100冊以降<第2回〜芥川賞〜>

こんにちは。新歓号に収まりきらなかったレビューを掲載していくこの企画。第2回です。
この前から掲載ペースをどうするか悩んでいたんですが、決めました。
全15回。月・水・金に更新していきます。よろしくね。

今回からは3回にわけて、芥川賞受賞作のレビューを載せていきます。
芥川賞は……いまさら説明不要ですよね。
まずは今年1月の受賞作をさっそく読んだマリスさんのレビュー。(みよしくにこ)



№102
芥川賞 第144回>『きことわ』朝吹真理子 新潮社
                    
 第144回芥川賞受賞作。葉山の別荘で25年ぶりに再会した永遠子と貴子という二人の数日間を、過去の記憶と織り交ぜながら描いている静かな物語。各所に現れてくる過去の映像に触れると、過去はいつだって今の中にあるということを実感させられる。過去があって今があり、今があって未来がある。そういう時間の大きな流れの上に私たちは存在しているのだ。
 作者が五感をフルに活用して世界を捉えているということがよくわかる文体は、この作品の持つ静けさ、透明さに非常に合っている。「後ろ髪を引かれる」のエピソードは秀逸。抽象画を見たような読後感に浸ることができる。(マリス)

きことわ

きことわ


№103
芥川賞 第144回>『苦役列車西村賢太 新潮社
                     
 第144回芥川賞受賞作。作者曰く、「起こった出来事自体は九割以上本当」という「私小説」である。日雇いのアルバイトで生計を立てている貫多の堕落した日常を淡々と描いた作品。
言い方は悪いが、最底辺の人生を生きる人の様を読むことで、「ああ、俺の人生はまだマシだな」と思える。作者自身も、読者がそう思うことを望んでいる。しかし読み進めるうちに、貫多のことを愛しく思えてくる。彼はただ生き方が不器用なだけなのだ。独りでいるけど、本当は淋しくてたまらないのだ。だが、その不器用さゆえに人を遠ざけてしまっている感がある。そんな彼を自然と応援してしまうのだ。(マリス)

苦役列車

苦役列車