平山瑞穂

平山瑞穂はそうとう優れた作家なんじゃないかということに最近気づきましてね。
というのも、私、実はちょっと前まで平山瑞穂はいまいちパッとしない作家だと思ってたんですよ。一作ごとに作風を大胆に変え、ファン層を広げている作家である、というのが彼によく付与されるうたい文句なのですが、作風の変更が必ずしもプラスに働いていないんじゃないかな、と。


ラス・マンチャス通信 (角川文庫)

ラス・マンチャス通信 (角川文庫)

ラス・マンチャス通信――まあ、彼のデビュー作で以前にもここで取り上げましたが――は現実と非現実の境目、きわどいところの世界観構築が非常に巧く、また、不条理にも否応のない家族の分裂とその収束を描くことでカタルシスを得られる傑作でした。とりわけ日常に進入している非日常を日常茶飯事のように他の事柄と変わらず描くのが好印象でした。
忘れないと誓ったぼくがいた (新潮文庫)

忘れないと誓ったぼくがいた (新潮文庫)

二作目、忘れないと誓った僕がいたは一作目以上にタイトルが秀逸ですが、こちらは完全に現実世界、我々の過ごす世界準拠の話で記憶モノ。記憶の崩壊と淡い恋愛の要素が絡められており、それが丁寧に描かれているのですから心が動かされないわけはないのですが、個人的には寂しくもありました。
ああ、なんだか普通の作品だな、と。一般受けはするだろうし、あざといモノは嫌いではないけれど、平山瑞穂にはもっと別のモノを書いて欲しかったな、と。これはラスマンを読んでしまっていたせいもあったのでしょうが。
シュガーな俺 (新潮文庫)

シュガーな俺 (新潮文庫)

シュガーな俺は持ち直し?
小説というよりはエッセイに近く、痩せぎすの体型で毎日の食生活が乱れている全国のもやしっ子を恐怖のどん底に陥れる作品。この初期三作を見ると、なるほど、確かに作風を大きく変えているな、という気がします。
冥王星パーティ

冥王星パーティ

続く冥王星パーティは要素のちりばめ方とその収束が上手いと感じられる作品。実際に描かれているのは要素の収束とその再発散の提示。つまりは僕たちって一瞬交わるだけの人生だったよね、というような話であり、奇抜さは感じられませんが、安定して綺麗に終わっています。
また、平山瑞穂作品にはよく現実にいそうではあるけれど、虚構の世界にわざわざ登場させるかそんなキャラ、というような、変な個性を持ったキャラが登場し(この部分は偏見の可能性大)、それがことごとく私の心を打ち砕いていくのですが、今作では望月という萌えキャラが登場するのがありがたいところ。癒されます。
株式会社ハピネス計画

株式会社ハピネス計画

次作、株式会社ハピネス計画。これがくせ者で……くせ者だったよね、以外の記憶は残念ながら忘却の彼方へ去って行ってしまっているのですが、かすかに覚えている限りでは主人公の立ち位置はラスマンのそれに近かったということ。頻繁に主人公が夢とも現実ともつかない状況に直面することもあり、要素の抽出をすればラスマンを彷彿とさせ、事実茫洋とした雰囲気が全体に漂っていますが、オチに至る収束をポッと出の展開からスタートさせてしまうのが残念、だったような気が……。
え、そんなとってつけたような終わり? まあ、いいけど。という様に読後はかなり動揺したと記憶しています。
タイトルに釣られましたね。
プロトコル

プロトコル

プロトコルも個人的には好きな作品なのですが……。作品内での言葉遊びにどれだけ食いつけるかで評価が変わる気がします。キャラクターは父が若干変人ですが、奇妙な行動を取ることも特にはなく、基本的に魅力があると感じられます。何もかもハッピーエンドとして収斂するのに依存はないのですが、家族の再統合については崩壊感をあまり共感できてないので、主人公の感じる幸福が読者に伝わるかは微妙なところ。
桃の向こう

桃の向こう

そして桃の向こうという、またしてもくせ者。その成り立ち上、仕方ないのかもしれませんが、配置されたまま無視されてしまう要素が残ることに動揺しました。個人的な印象では収束しきれていない冥王星パーティといったところ。
魅機ちゃん (IKKI BOOKS)

魅機ちゃん (IKKI BOOKS)

何故かアマゾン評価が低い魅機ちゃんですが、私は大好きです。というのは物語が単純に面白い。まあ、どう考えてもハッピーエンドにできない構造を用意しておいて、それでも読者の心に何らかの幸福感を与えようとする演出は好き嫌いが別れそうですが。ちなみに文章と漫画の融合をうたっていますが、それが成功しているとは思えません。挿絵の多いライトノベルですよね、というところに終始してしまいます。
どうすれば良いと明示することはできませんが、おそらく、もっと別の形でその融合は果たせるのではないかと思うのですが……。
全世界のデボラ (想像力の文学)

全世界のデボラ (想像力の文学)

最後に想像力の文学レーベルから、全世界のデボラ。SFマガジンに収録された短編を集めた短編集ですが、だからといってまったくSFでないのがミソ。
作者曰く、ラスマンと同じような立ち位置から書いたとのことで、現実と非現実が絡み合い、地に足をつけないまま物語が進行していく感じがたまりません。とは言っても、意味を考え出すと途端に行き詰まってしまい、そういった意味では非常に読みづらい作品であると感じます。駆除する人々は雰囲気が他の短編と一線を画していますが、それ故楽しいライトノベルになっています。十月二十一日の海はキワモノ感が溢れている……。
まあ、デボラについては再読しようと思っているので評価が180度変わる可能性もあるのですが。


全体的に誉めているのかどうなのかよくわからない感じになってしまい、事実、読んでいるときや読了直後には「うーん、面白い……?」と首を傾げることが多々あるのですが、振り返ってみると作風を変化させても物語のクオリティは高く、これはすごいことだなと思ったり。
まあ、あざといのが多いような気がするので、そこは変えて欲しいのですが。一般的にはそこが受けるんだろうなあ……。


禾原