老人賭博

老人賭博

老人賭博

前回の芥川賞候補に松尾スズキの作品があったと聞き、長いこと読みたいと思っていたのですがようやく読むことができました。


主人公の内面描写ではなく、周りの人物の動きに重点を置いた群像劇ですぐにでも映像化できそうな作品。意識してか無意識にかはわからないけれども動作中心の物語を書けるあたりは流石脚本を書いているだけのことはあると思います。
主人公は完全に視点であるだけの人物。映画に関わりたいと言ってギャンブル好きの脚本家兼俳優に弟子入りした、などと行動になんやかんやと理由はついていますが、カメラである印象は拭えません。
本作のキモは小関老人。名脇役と言われるベテラン俳優で、数々の役柄をこなしてきた彼が映画初主演。緊張しているうえに老人でもあり、映画の脚本にはそこかしこにとちりそうなシーンがあります。
各々のシーンで彼がとちるかとちらないかがギャラリーで賭の対象にされ、影では自分たちの望みの結果を出そうと画策する人々が。
そんなことはつゆ知らず、初主演の映画に熱心に打ち込む小関老人。
賭に勝つために多くの人が行う手助けや好意に見せかけた妨害に全く気づくことなく純粋に良い仕事をしようとする小関老人の姿には哀愁漂います。表紙を凝視してからではなおさら。
また、主演女優、いしかわ海の本当に親切心で行った行動に対しての反応も悲しい。
そんな哀愁を感じさせる作品なのですが、そこに心をうたれぬよう、作者がギャグを被せてくるので安心して読めます。


しかし、松尾スズキにしても本谷有希子にしても人間の残酷さ、醜悪さを前面に押し出すことが多いような気がしますね。
デフォルメされて、より鋭利な形になって物語に登場することが多いせいか笑いを誘う場面に繋げられるのですが、そこだけ切り取るとホントえぐいと思うときが多々あります。よくこんなの書けるな、と。
同じ劇作家にしても前田司郎はそんなことないのにな。やっぱりどこで小説を書くか、という環境が影響しているんでしょうか。
あ、本谷有希子松尾スズキがわからない人はフリクリを見れば良いと思うよ。二人とも出てるし。


禾原