王妃の離婚

王妃の離婚 (集英社文庫)

王妃の離婚 (集英社文庫)

 佐藤賢一は間違いなく面白いのに読まれていないのはあまりに不憫だ。
 と言っても読んだのは王妃の離婚だけなので、下手に知らないことに言及しようとすると間違えるかもしれないから、王妃の離婚だけに関して好き放題言うことにする。

 舞台は15世紀ヨーロッパ。とある離婚裁判が開廷された。被告は、フランス王妃ジャンヌ・ドゥ・フランス。原告はフランス王ルイ12世。異例の「国王夫妻の離婚裁判」だった。勝ち目のない王妃の弁護に、「伝説の男」フランソワ・ベトゥーラスが立ち上がる。だが、自分の意思で始めた弁護のはずが、偶然にしてはで出来過ぎの人のつながり。その中心にいたのは……?
 「離婚裁判なんてつまんなそう」と、最初は自分もそう思ったけど、読み進めるうちに、あれよあれよと物語に、人物に引き込まれていく。登場人物誰も彼もが魅力的、というのは陳腐な言い回しだが、その言葉がまさに当てはまる。いやちょっと言いすぎかも。でも魅力的な人物が多いのは事実。
 一番盛り上がるのは、フランソワが弁護士に立候補するシーンだろうか。なかなか筆が巧みで、段々熱くなってくるフランソワの心情にこっちも興奮してくる。そしてこの言葉「インテリは権力に屈してはならない。意味がなくても常に逆らわなければならない」。果たしてこの世に正義はあるのか? 真実の愛とは存在するのか?
 一般市民や学生たちと言ったモブキャラがとても生き生きしていて、ここはかなり上手い。舞台が王妃の生まれ故郷なので、街の奥さん連中は王妃にとても同情的なのだが、フランソワが最初の弁護を終えて裁判所を出たときの歓迎されっぷりはニヤニヤできる。あと原告側の歓迎されっぷりもニヤニヤできる。学生も学生で、暴れるときの楽しそうな表情が想像できるほど活力にあふれていて、読んでる方が無駄に元気になってしまう。
 伏線の張り方もなかなか秀逸。伏線のある小説をあまり読まないからそう感じるだけかも知れないけど。
 調べてみたら時代考証的な間違いがちょっとあるみたいだけど、フィクションなので全部史実に合わせる必要はない。そこは上手く料理した、と言える。
 言い忘れてたけど第121回直木賞受賞作。1999年。あと作者の出身が山形県鶴岡市で、自分の出身市とすごい近い。なんか嬉しいです。
 まあ総括するとオーエンが一番かわいいよね、ってことで。サークル室にU介さんのがあるのでみんな読んでね。

参考HP:
http://www1.ocn.ne.jp/~matsuo3/books/oukinorikon.htm
http://www.geocities.jp/room_fai/z-divorce.html