幻想研の100冊以降<第11回〜表紙の青い本〜>

今回からは「表紙の青い本」特集。青と言ってもけっこう多彩です。(みよしくにこ)

№120
ライ麦畑でつかまえて
J.D.サリンジャー 白水社
 ホールデンは自分を孤独だと認識している。彼の孤独の定義は同じ感覚を持つものがいないということだ。学校を退学になった彼はその孤独感からつながりを求めるように放浪する。彼の「僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえるものなんだ」という宣言が、彼自身の中途半端な立ち位置と、彼の感じている、求めているものを正確に表している。一言で言ってしまえば思春期。この思春期やティーンエイジャーといった言葉が便利すぎるために、「ああ思春期ね」と理解してしまうとつまらない。言葉にすると全く陳腐になってしまうのでとにかく一読。話はそれから。(84)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)


№121
鉄塔武蔵野線』銀林みのる 新潮社・ソフトバンク
 新人賞はいったいどのような作品に与えられるべきか。将来性や話題性等様々要因はあるでしょうが、出版界がある一定の頻度で世に送り出さなければいけないのは「小説の世界を広げうる」作品でしょう。鉄塔武蔵野線という現代の奇書は、ファンタジーノベル大賞受賞作の中でもとびきりの異彩を放つ、純鉄塔小説です。古川日出男の「LOVE」や青木淳吾「TOKYO SMART DRIVER」などの風景小説に先駆ける作品であり、作者の超絶的な鉄塔好きが暴走する新感覚鉄塔小説に仕上がっています。(絶版の時期もありましたが、現在はソフトバンクがなぜか「完全版」の文庫を出しています。) (どはつてん)

鉄塔 武蔵野線 (ソフトバンク文庫 キ 1-1)

鉄塔 武蔵野線 (ソフトバンク文庫 キ 1-1)